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浦和地方裁判所 昭和45年(ワ)417号 判決 1972年1月21日

原告

斉藤誠治

被告

岩上悦雄

ほか二名

主文

1  被告等は、連帯して原告に対し金六八一、八八七円及びこれに対する昭和四四年九月七日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、被告等の負担とする。

4  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、各被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告等は、連帯して、原告に対し金六九九、五八六円及びこれに対する昭和四四年九月七日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告等の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告等の請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

原告は、昭和四四年九月七日午後四時四〇分頃、訴外小林光雄所有の普通乗用車クラウンオーナーデラツクス(以下「原告車」という。)を運転し、一七号国道大宮バイパスを熊谷市方面より大宮市方面へ進行し、埼玉県北足立郡北本町山中二一八の三先路上の信号機により交通整理の行われている交差点において、赤信号のため停車中、後方より進行して来た被告岩上悦雄の運転する普通乗用車(登録番号群5ほ6566号―以下「被告車」という。)に追突され、原告車を大破させられた。

2  被告らの責任

(一) 被告岩上悦雄の責任

同被告は、自動車運転の業務に従事するものとして、信号機によつて交通整理の行われている交差点においては、信号機の表示する信号に注意して進行し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにも拘らず、右義務を怠り、不注意にも対面信号が赤色になつているのに気づかず、漫然と高速度で進行した過失がある。従つて、直接の不法行為者として民法七〇九条により損害の賠償義務がある。

(二) 被告会社の責任

同会社は、不動産の仲介及び売買を主たる業務とする会社で、被告悦雄を従業員として使用し、自動車運転業務を行わせており、本件事故も同人が被告会社の業務の執行中に発生したものであるから、民法七一五条一項により賠償義務がある。

(三) 被告岩上寅吉の責任

被告会社は、事実上同被告の個人会社であり、同被告は、被告会社の代表取締役として、且つ未成年者である被告悦雄の父親として、被告会社に代り、現実に被告悦雄の業務執行を監督する立場にあつた。よつて、民法七一五条二項により賠償義務がある。

3  原告の損害

原告車は、前記のように小林光雄の所有であり、原告が小林より借用中に本件事故によつて破損したものであるため、原告は、小林に対して損害賠償義務を負担することとなり、同年一〇月二日小林の求めに応じ、損害賠償として金七六七、四八〇円を支払つた。右金員中、左記金員合計六九九、五八六円が、本件事故によつて原告の蒙つた損害である。

(一) 原告車の破損による損害 六三八、九三六円

原告車は、同年六月二四日小林が訴外東京トヨペツト株式会社から九二九、五〇〇円で購入したばかりの新車であるが、本件事故後の同年九月二一日、同会社池袋サービス課に修繕見積方を依頼したところ、その修繕費用は、金三〇六、四八五円を要し、しかも、修繕を加えてもその自動車の価値は、費した修繕費に無修繕のままの下取り価格を加算した程度を出ないとの査定であつたので、やむなく無修繕のままで同年一〇月九日同会社に金二三五、〇〇〇円で買取つてもらつた。

よつて原告車の損害額は、本件事故直前の時価相当額金八七三、九三六円から下取り価格金二三五、〇〇〇円を差し引いた六三八、九三六円である。

(二) レツカー代 二三、六〇〇円

事故発生地の保管場所から、東京都港区芝浦の東京トヨペツト株式会社中古車センター迄の輸送代金。

(三) 代車謝礼金 一四、〇五〇円

本件事故の翌日より新車購入の日迄、小林の業務(電子部品の製造販売)に供するため、原告は訴外斉藤稔より同人所有の普通乗用車を借用し、これを小林に提供したが、斉藤に借用の謝礼として金一四、〇五〇円を支払つた。

(四) 督促費用 三、〇〇〇円

原告が被告等に対して、本件事故に基づく損害賠償を求めるための電話代、交通費。

(五) 弁護士費用 二〇、〇〇〇円

原告は、被告等に対し、損害賠償の交渉をしたが、被告等はこれに応じないので、訴訟提起の必要に迫られ、原告訴訟代理人に訴訟を委任し、着手金二〇、〇〇〇円を支払つた。

4  よつて原告は、被告らに対し連帯して右損害金合計六九九、五八六円及びこれに対する事故発生の日である昭和四四年九月七日より支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告等の認否

1  請求原因1中被告車が原告車に接触したことは認め、その余は否認。

2  請求原因2(一)は争う。すなわち事故当時激しい雷雨のため視界はゼロに近く、被告悦雄は、安全運転をしながら現場付近に差しかかつた際、前方を走行していた原告車が急停車したので、急制動をかけたが、スリツプしたために原告車に追突したものである。同(二)のうち、被告悦雄が不動産の仲介売買等を業とする被告会社の従業員であり、運転手をしていたことは認めるが、その余は否認。同(三)について、被告寅吉が被告会社の代表取締役であること及び被告悦雄の父親であることは認め、その余は否認。被告車は、被告悦雄のレジヤー用として同被告個人所有のもので、同人は、事故当日が日曜日であつたので、内縁の妻野口初江を同乗させ遊びに出かけたものである。従つて被告会社及び被告寅吉は、本件事故とは無関係で何らの責任もない。

3  請求原因3の冒頭の事実及び(一)、ないし(四)は不知、同(五)は認める。

第三〔証拠関係略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1のうち、原告主張の日時、場所において、原告車に被告車が追突したことは当事者間に争いがない。

二  被告等の責任

1  被告悦雄の責任

〔証拠略〕を総合すると、本件現場付近は、日常は見通しのよいアスフワルト舗装の道路であるが、事故当時雷雨のため相当激しく雨が降つており、道路の見通しが悪かつたこと及び原告車が赤信号のため停車後約一五秒ほどして、被告車がこれに追突したことが認められる。自動車運転の業務に従事する被告悦雄は、右認定の悪天候の下においては、信号が見えにくく、かつ、アスフワルト舗装道路でスリツプし易いのであるから、十分に前方を注視して事故発生を未然に防止すべき義務があつたのにもかかわらず、不注意にも赤信号に気づかず、漫然と被告車を進行させ原告車に追突させたのであるから、前方不注視の過失がある。

2  被告会社の責任

被告悦雄が不動産の仲介売買等を業とする被告会社の従業員であり、自動車運転業務を行つていたことは当事者間に争いがない。しかして、〔証拠略〕を総合すると、被告悦雄は、事故当時未成年者であつたこと、被告会社は、従業員数名の被告寅吉の主宰する個人会社であること及び被告会社の代表取締役であり被告悦雄の父親である被告寅吉(この地位、身分関係等については当事者間に争いがない。)は、本件事故により被告車が使用不能となるや新車を被告悦雄のためにということで再購入したが、その購入するについて新車代金を相当負担し、右新車は、被告会社の代表者である被告寅吉名義にされていることが認められる。これらの認定事実から、被告車についても、その所有名義の如何を問わず、その購入に際しては被告寅吉の資金援助が全くなかつたとは考えられず、更にこれを被告会社の業務のため全く使用していなかつたとも考えられない。従つて、かりに被告ら主張のように、本件事故は被告悦雄が休日のため私用で東京へ出かける途中の事故であつたとしても、右認定の事実によれば、本件事故当時の被告悦雄の被告車運転行為は、被告会社の業務の執行行為中の外形を有するものと解するのが相当であり、被告会社には民法七一五条一項により損害賠償義務があるものといわねばならない。

3  被告寅吉の責任

被告寅吉が被告悦雄の父親であり、被告会社の代表取締役であること、被告悦雄が被告会社の従業員であることについては、前説示のように当事者間に争いがないところ、被告悦雄は、事故当時未成年者であつたこと、被告会社は、従業員数名の小規模の会社で、事実上被告寅吉のいわゆる個人会社であることは、前認定のとおりである。右事実を総合すれば、被告寅吉は、被告悦雄の使用者である被告会社に代つて、被告悦雄を監督すべき立場にあつたと言うべきであり、被告寅吉には、民法七一五条二項により損害賠償義務がある。

三  原告の蒙つた損害

1  原告車の破損による損害 金六二二、二三七円

〔証拠略〕を総合すると、原告車は、小林光雄の所有にあつたところ、本件追突により破損したので、原告は、昭和四四年一〇月二日、小林にその破損による損害賠償として金七六七、四八〇円を支払つたが、原告車を修理するには金三〇六、四八五円を要ししかも原告車はフレームまで破損しているので、完全な修理はできず、修理をしたとしても、走行中蛇行するおそれがあるなどの欠陥が残ること、原告車の未修理のままの下取り価格は金二三五、〇〇〇円であること、原告車の事故直前の価格は金八五七、二三七円(929,500-(929,500×0.319×76/365)=857.237)であること、が認められる。右認定事実によれば、原告車を修理しても、修理後の価格は、修理代金に未修理のままの下取価格を加えた額よりも低く、しかも走行中蛇行するおそれがあるなど致命的欠陥が残るので、原告車を修理して使用するよりも、新しい車に買替える相当な事情があるといわなければならず、そうすると、原告車の破損による損害は、事故直前の価格金八五七、二三七円より下取り価格金二三五、〇〇〇円を差し引いた金六二二、二三七円となる。

2  レツカー代 金二三、六〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告車を事故現場から東京都港区芝浦所在東京トヨペツト株式会社までレツカー車で運搬した運搬費が金二三、六〇〇円であることが認められる。

3  代車の謝礼 金一四、〇五〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告車の所有者で事故当時電子部品の製造販売業を営んでいた小林は、本件事故後、右仕事の都合上急速に代車を必要とし、そのため原告は、その実兄である斉藤稔から約一箇月間自動車を借り受けこれを小林に供したので、その謝礼として斉藤稔のために、右代車に対物保険契約を締結し、保険料として金一四、〇五〇円を支払つたことが認められ、右保険料一四、〇五〇円は代車の謝礼に準ずるものであり、本件事故と相当因果関係の範囲内の損害と認められる。

4  督促費用 金二、〇〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告は、本件事故に基く損害賠償請求のため、被告等の住所地である群馬県桐生市まで二回往復していることおよび被告等へ約一四回電話したことが認められ、右事実によれば、督促費用として金二、〇〇〇円と認めるのが相当である。

5  弁護士費用 金二〇、〇〇〇円

被告等は、原告の本件事故による損害賠償請求に応じないため、原告が原告訴訟代理人に本件訴訟提起を委任したことは当事者間に争いなく、原告の請求する金二〇、〇〇〇円は本件訴訟における弁護士費用として相当である。

四  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、本件事故による損害賠償合計金六八一、八八七円及びこれに対する本件事故の日である昭和四四年九月七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 須賀健次郎)

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